「手術の前に、免疫チェックポイント阻害薬と抗がん剤を組み合わせた治療をしていきましょう」
トリプルネガティブ乳がんの患者さんのなかには、こう言われた方もいるのではないでしょうか。「免疫チェックポイント」という聞きなれない言葉に、なんとなく怖いイメージを持つ方もいれば、その響きから「なんだか効きそう…!」と感じる方もいると思います。
そう。この治療は、トリプルネガティブ乳がんの手術前の治療のなかでも、pCR率(手術前の薬でがんが完全になくなる割合)が高い治療なんです1)。 そして、転移・再発した乳がんでも、トリプルネガティブでPD-L1陽性の方であれば受けることができます2)3)。
免疫チェックポイント、PD-L1——すでに難しい言葉がたくさん出てきましたね。この記事では、そのひとつひとつをブレきゃん流にとことん解説していきます。
免疫(めんえき)ってなに?
私たちの体をつくる細胞には、DNAという設計図があります。
細胞は日々分裂をくり返していますが、そのなかでコピーのエラーがたくさん起き、不良品の細胞ができてしまうことがあります。
本来、私たちの体には警備員のような細胞がいて、不良品ができても見つけしだいやっつけてくれます。これが「免疫」です。
がん細胞は免疫にブレーキをかけている
日々たくさん生まれる不良品のなかでも、次のような特徴を持ってしまった細胞が「がん細胞」と呼ばれます。
がん細胞と呼ばれる細胞の特徴
- 体のルール(必要なときに増えて、不要になったら死ぬ)を守る仕組みが壊れている
- 設計図どおりに分裂できない(設計図をコピーする機械そのものの設計図が壊れている)
こうした特徴は、ひとつの細胞にいくつも重なっていることもあり、その組み合わせは細胞ごとに違います。がん細胞は、決してひとつの顔をしているわけではないのですね。
そしてがん細胞のなかには、免疫細胞の働きを止めてしまう「ブレーキ」を使うものがいます。そのブレーキの代表が、PD-L1とPD-1です。
PD-L1とPD-1のほかにも、免疫のブレーキはまだいくつもあると考えられています。 治療に使えそうなブレーキを、いま世界中のがん研究者が必死になって探してくれているんですよ。
本来、ブレーキは正常な細胞を守るための仕組み
このPD-1とPD-L1、もともとは免疫細胞が正常な細胞を攻撃してしまわないようにするための仕組みです。
がん細胞は、このブレーキを悪用する
ところが、がん細胞のなかには、この仕組みを逆手にとるものがいるのです。
- がん細胞:本来なら持っていないはずの「PD-L1」を掲げる
- 免疫細胞:「PD-1」センサーがそれを読み取り、「仲間だ」と勘違いしてブレーキ
- 結果:免疫細胞はがんを攻撃できなくなる
という構図です。いわば“偽装免許証”で、免疫の目をあざむいているのですね。
免疫療法は「免疫のブレーキを外す」治療
この「PD-1」センサーか「PD-L1」免許証のどちらかをふさいで、にせの免許証を読み取れないようにする——つまりブレーキを外すのが、免疫チェックポイント阻害薬です。
ブレーキが外れた免疫細胞は、本来の仕事を再開して、がんを攻撃するようになってくれるんですね。
免疫チェックポイント阻害薬の例
- ペムブロリズマブ(キイトルーダ)… 免疫細胞のセンサー(PD-1)のほうをふさぐ
- アテゾリズマブ(テセントリク)… がん細胞の免許証(PD-L1)のほうをふさぐ
乳がんでのPD-L1検査
大前提として、トリプルネガティブ乳がんで、手術の前に免疫チェックポイント阻害薬と抗がん剤の治療を行う方は、PD-L1を調べる必要はありません。
一方、転移・再発したトリプルネガティブ乳がんでは、PD-L1の状況を病理検査で調べる必要があります。検査には2種類(22C3抗体、SP142抗体)があり、使う薬によって判定の基準が違います。
検査と薬の組み合わせ
- 22C3抗体で陽性(CPS 10以上)… ペムブロリズマブ(キイトルーダ)
- SP142抗体で陽性(ICスコア1%以上)… アテゾリズマブ(テセントリク)
免疫の暴走=irAE(免疫関連有害事象)
ブレーキを外された免疫細胞は、ほかのさまざまな手がかりを頼りに不良品を見分けて攻撃します。まさに“刑事の勘”。
勘のいい免疫細胞ばかりならいいのですが、なかには誤って自分の正常な臓器を攻撃してしまうものも出てきます。これが免疫の暴走です。
主な免疫関連副作用
- 甲状腺機能異常
- 副腎機能低下
- 1型糖尿病
- 大腸炎
- 間質性肺炎
- 皮膚障害
- まれに心筋炎・神経障害
これらは「いつもと違う体調の変化」として現れます。「だるい」「動悸が続く」「下痢が止まらない」など、ちょっとした症状でも主治医に伝えるのが大切です。
irAEは、治療が終わったあとに起こることもある
免疫細胞には「免疫記憶」といって、一度攻撃した相手の特徴を覚えておく性質があります。
そのため、免疫チェックポイント阻害薬の治療が終わって何年も経ってから、何かをきっかけに免疫の暴走が起こることがあります。
まとめ
参考文献
- 1) Schmid P, et al. N Engl J Med. 2024; 391: 1981-1991.(KEYNOTE-522試験)
- 2) Cortes J, et al. N Engl J Med. 2022; 387: 217-226.(KEYNOTE-355試験)
- 3) Schmid P, et al. N Engl J Med. 2018; 379: 2108-2121.(IMpassion130試験)
※この記事は一般的な医学情報です。実際の治療方針は、病状、検査結果、体調、価値観によって異なります。必ず主治医と相談してください。